ラブ

平日、昼下がり、冷たく凛とした空気、白い吐息……そして、その人。


その人は、私の目の前で楽しそうに笑った。茶色がかった髪がふわりと舞う。至福の笑みを浮かべ見せる無邪気な姿は、私を幸せにするには十分過ぎる。その手には、爪楊枝。先に刺さったたこ焼き。私は自らの手を止め、その人の一挙手一投足を眺めていた。自然と、私まで嬉しくなってくる。


卒業式が終わり、暇を持て余していた私達は、こうして毎日のようにデートを重ねていた。ううん、そんな大層な事じゃない。例えばウィンドウショッピングに出かけたり、河川敷で雑談をしたり、そんな程度のお出かけだった。でも、そんな程度の日常が、私にはたまらなく嬉しくて、かけがいの無いものなんだと改めて実感している。


そう、日常。私はその人の茶色い髪も、部活姿も、溌剌とした笑顔も、いつも皆の輪の中心に居た事も、そして……幾度と無く重ねた手の温もりも、決して色褪せずに甦らす事が出来る。


その人のたこ焼きはみるみるうちに無くなり、私に「どうしたの?黙って笑って。たこ焼き、食べないの?」と言ってきた。


私は考えた事がある、その人に出会えなかったら私はどうなっていたんだろう、と。そんな事を考えるのが馬鹿馬鹿しいのは解っている。それでも、そう思ってみただけで、少し、涙が出た。でも、現実は優しかった。こうしてその人に出会えて、こうしてその人と笑う。人は時に運命を呪い、忸怩たる思いを吐露し、どうしようもない世界に立ち向かう。だけれども、運命に感謝し、幸福を噛み締め、ただそこにある当たり前の世界に笑う事だって出来るのだ。私は、ただその人と出来る限り共に過ごしたくて、その人の笑顔を見たくて。


一瞬躊躇しながら、思い切って口を開いた。


「うん、私の分も、食べていいわよ」
「ホント!?ラッキー!いただきまーす!」
「でもその前に、私の質問に答えて」
「え、あ、うん。何?」
「……私の事、好き?」
「ぶっ!な、な、何をいきなりヤブヘビに……」
「もう、それを言うなら『藪から棒に』でしょ!」
「え、そうだっけ?」
「いいから答えてよ」



「うん……好き。大好きだよ!」



「……うん、私も」



「じゃあ早速たこ焼きを……」
「駄目よ」
「何で?」
「私が食べさせてあげる、はい、あーん」
「ちょ、どうしたの?今日は」
「いいでしょ!もう、たこ焼き、いらないの?」


いつかその人が言っていた「欲張りだから、こんな何でもない日常もいつまでもカラフルに覚えていたいんだ」という言葉。そうなんだ、私と同じように想っていてくれたんだ、って、凄く嬉しかった。私達の想いは繋がっている。そう信じ、こう思うのは私の傲慢だろうか?


未来にある希望が全部、アナタにも届きますように、と。


今までも、これからも、ずっと、ありがとう。


一語100%